会計5,030円
「それではお会計の方、5030円お願いしまーす」 いきつけの店で見つけた靴。 履き古した外観が気に入って、サイズもフィット感もピッタリだったから即行買ってみたらコレだ。 5030円だと? いや、別に高いとか難癖つけたい訳じゃない。 いつも買ってるのに比べたら断然安い。 問題は、だ。 「なんでよりによって今日、5030円なんだ」 思わず口に出てしまった。 「どうかしたの修平くん」 顔なじみの店長が不審そうに顔を覗き込んできた。 いや、おっちゃんのせいじゃないんだよ。 「あー、うん、ただの独り言」 「そう?」 それ以上は聞かれなかった。 まあ、別にたいしたことじゃ・・・んとに、大したことじゃないんだよなあ。 「あ、レシートくれる?」 いつもは受け取らないはずの薄っぺらい紙を受け取って店を出た。 「こりゃ性分だな」 自分に一言文句を言った。 「5,030円」 なんて別に普段ならなんでもない、ただの数字なのに。 よりによって今日、という日を思い出してしまったのだ。 思い出さなきゃ、何もしなくても気にならない(当たり前だが)。 しかし、一旦思い出してしまった以上は何かやってやらないと気がすまない。 アイツの宿体の誕生日に限って覚えてる辺り―――やっぱ性分だ。 ****** 高耶さんのところに泊まると、約一名ロクでもない付属がついてくる。 安田長秀―。 こういう時、<思念波>を飛ばせる力はありがた迷惑だ。 私が来たときに限って、長秀の方から<思念波>を飛ばしてくる。 高耶さんが学校の補習で家を出た途端、 『虎公が帰ってくるまで付き合え』 と来た。 あいつのことだから、きっと要領よくやってるんだろう。 そう思って、高耶さんが帰ってくるまでの時間、暇つぶしに付き合うことにした。 ・・・で、付き合った出先がここだ。 パチンコ-UESUGI- そして私は景品交換所の前に立たされていた。 「で、どれがいいんだよ」 相変わらずの憎まれ口を叩く男―長秀だ。 「長秀、私はお前が考えているほど暇ではないのだが?」 「お前の都合はどーでもいーの。それよか早く選べって」 「選べ、と言われても・・・」 見回すと、CDから家電製品からありとあらゆる物が並んでいる。 邪魔にならなくて、持ち帰りがし易いもの・・・ そういった基準で選ぶ辺り、職業病かもしれない。 ふと、一つの時計が目に止まった。 ジックな作りだが、重厚感がある。 自分ならああいった時計を選ぶだろう・・・ 「ではあの時計を」 係員に頼んで受け取る。 「ほら、選んだぞ」 そう言って長秀に渡そうとすると、 「お前にやるんだよ」 と返された。 聞き間違いか? この男が私に物をくれるなど、あってはならない珍事だ。 何か裏があるのではないか。 そう思っても不思議ではあるまい。 疑いの眼で長秀を見ると、 「俺はギャンブルには<力>使ってねぇからな」 と言う。 それこそ疑わしい。 まあ、プライドがあるのかもしれんが・・・ 渋っている表情が顔に出たのだろうか。 長秀は鬱陶しそうに私の胸元に時計を突き返し、 「お前の誕生日だろうが」 言いざま、膨れっ面で現金交換所へと歩いていった。 「俺は、景品に交換するクチじゃないっつーの」 微かに溢した声が聞こえた。 その長秀の後姿を見てフッ、と笑みがこぼれた。 「人を祝う時ぐらいは、はっきり用件を言え」 そう言葉を投げかけると、「今度奢れ」と言われた。 なんだ、結局いつものパターンじゃないか・・・ *** 直江のあの顔には笑った。 振り返り様、チラっと見た直江のなんとも言えない表情が笑えて、肩を震わせてしまった。 ったく、アニバーサリー男の癖にニブいんだよアイツは。 煙草を探って胸元のポケットに手を入れると、レシートが一枚出てきた。 小計 5,030円 現計 5,030円 ―――――――― 釣 0円 このレシートで、一日狂ったなんて死んでも言えやしない。 だから、今日は祝ってやったのさ。 Happy Birthday to you〜♪ってヤツを。 |
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千秋はいつでも「俺様流」。