■同車





仲春―如月の候。

年明けの除目も終わり、春は一層深まる兆しを見せていた。
早咲きの梅がその匂いを誇り、新緑に彩りを添えている。

左大臣・藤原道長の春日詣に随行した左兵衛督・藤原公任と左大弁・行成は、
その帰り道で同車していた。
砂利の振動に時折、身体を揺らしながら二人は長いこと沈黙していた。
時節がら陽気もそこそこで、二人で同車していても暑苦しい感は微塵もない。

公任が欠伸を押さえきれず、扇の陰で息を漏らしたのをきっかけに二人は口を開いた。
公任の欠伸が無ければ、二人とも道中を眠って過ごしたかもしれない。

「お疲れですか、左金吾殿」
口元で微かに笑うと、行成は自らも扇で口元を押さえた。
「おや、左大弁殿にも眠りの精が移ったようですね」
互いに顔を見合うと、自然と笑いがこぼれた。
普段から二人は格別の付き合いがある訳では無かったが、道長を補佐する人間として
互いに語り合うことはしばしばある。
そんなときは、決まって公任の口数が多くなり、行成が聞き役に回るのが常であったが
今日は珍しく行成から話題を振った。

「近頃、私撰の和歌集を編まれていると風の噂で耳に致しましたが」
「まあ、暇人の不善ですが。貴方のおじじ様・謙徳公に倣い、倭歌得業生柿本末成などと名乗っておりますよ」
「暇人などとお戯れを。閑居しているのは私の方ですよ」
「それこそ戯れにもほどがありますな」

行成より七つほど年上の公任は、この年下の同僚との機知に飛んだ会話を好んでいた。
行成の父親とは、従兄弟の関係にあった公任である。
血縁ある年下の同僚の昇進を疎ましく思わないことも無かったが、それも時勢だろうと頭では一応の納得をしている。
心の方では、気にしているのだろうか。
時折、三十路も半ばに差し掛かったこの男に対して失言を放ってしまうこともあった。
(この欲が、世俗に囚われる所以かもしれぬ)

暫し物思いに耽った公任は、懇意にしている書写上人のことを思い出していた。
「そういえば、性空殿のご容態が芳しくないそうです」
公任の思念を察したかのように、行成が口を開いた。

性空―書写上人と呼ばれる天台僧である。
橘氏の出身であり、鬼とも言われた良源に師事した。
また花山院を始め、多くの公卿の覚えもめでたい僧侶であった。

「そうか、性空殿が・・・」
「ええ、しかし齢100年近い方と聞き及んでおります。さすれば大往生でありましょうや」
「あの方には、籠居の折に色々諭して頂いたものだ」
「左様でしたか」

二人の間には、再び沈黙が訪れた。
ふと、公任が扇を閉じて行成を見遣る。
視線に気づいた行成が顔を上げると、公任は目を閉じて何事か呟いているところだった。
「如何なさいました、公任殿」
決まって丁寧な口調で話す行成に、微苦笑しながら公任は口元に手をやった。

「いふにつけても わきぞかねつる・・・。上の句は何であったかな」
行成は、咄嗟の質問に考えあぐねていたが
「ああ」
と笑みを溢して手元を見遣った。
筆を持ったような手つきで、空に文字を描いていく。

「春深み み山がくれの花なしと」
行成の空書を読み上げた公任は、満足そうに頷いた。

春深み み山がくれの花なしと いふにつけても わきぞかねつる

公任は目を閉じたまま、上下繋がった歌を詠じてみせた。

「公任殿に読みあげて頂くことほど、この身の恥かしさを知ることもありませんね」
少しはにかむように答えた行成は、公任の横顔を見つめながらこの歌を詠んだ頃を思い出していた。

(この方も、私と同じように不運をかこってきたのでは無かっただろうか)

考えをめぐらせながら、行成は白髪の交じり始めた公任に何か物悲しさを覚えた。

それは、自分が長年秘めてきた心の内に共感を覚えるものであったかもしれない。
行成は、記憶の糸を3年前ほどまでたぐり寄せてみた。

「確かあれは・・・干陵の島人が来着した年でしたね」
行成の呟きに公任が軽く目を見開く。
「そうだな、そんな頃だ。干陵の島人を恋歌の句に使った覚えがある」
「流石は公任殿。時事すら雅ごとにしてしまわれるのですね」
「貴方に言われると、どうも素直に受け取れないのは何故だろう?」
互いに面映い思いだったが、二人は上手く表出出来ないでいた。

時は長保から寛弘へと移った年に遡る―――





***



寛弘元年―――。

その年は安倍晴明によって五龍祭が執り行われ、雨の下しる秋が続いた。
そして季節外れの野分が吹き荒れる頃から、左衛門督・公任の不参が続くようになった。

如月の春日祭使には左大臣・道長の嫡男たづ君が立たれ、その折に公任は道長と贈答歌を交わし、
権勢との結びつきも益々強まる兆しを見せていた。
しかし、事件は初冬を迎えた神無月に起こった。
公任より一つ年下である右衛門督・斉信が、祭事を取仕切った功で、公任を越えて従二位に達したのである。
暫く昇進から遠ざかっていた公任はこれに対し、籠居という形で身の不遇を世に示した。
そして師走甲午の日、公任は大江匡衡に作らせた辞書(辞表)を、右中弁・経通を通じて道長に奏したのである。
その上表は5日後には却下され、公任は不出仕を続けた。

年が明けても公任の籠居は続いた。
晩春には道長から

谷の戸をとぢやはてぬる鶯の 待つに音せで春の過ぎぬる
(谷の入り口をすっかり閉じてしまったのか、待っているのに鶯が鳴き声を立てないうちに、
         春が過ぎてしまいましたよ。いつまで蟄居を続けるおつもりか)

と、直々に仰せつかったが公任は

ゆきかへる春をも知らず花咲かぬ みやまがくれの鶯の声
(移り変わってゆく春に気づくこともありません、花の咲かない深山で密かに鳴き声をあげる鶯は。
我が世の春を知らず、私は泣いているのですよ)

と、わが身の不遇を強調して返歌した。

宮中の者たちからも、道長に倣うかのように様々な文が寄せられていた。
そんな文も途絶え始めた頃、近親の者たちと取り交わした文を読み返しながら身を崩していた公任の元に
また新たな祝いの文が届けられた。
(今ごろ文を遣すなどと、どうせ地下の者であろう)
そう思ってだらしなく解いた文箱の装飾に、公任は不自然さを覚えたが、身分以上の贅沢をする輩の存在は昨今
さして珍しいことでもない。

(なかなか良い趣味の襲ねだが・・・)
ぼんやりと眺めていた公任の目に映った手蹟は、地下人のものとは程遠いものであった。
「これは・・・右大弁殿の手。相変わらず見事なものだ」
感嘆の息を漏らしながら、公任は文に書き付けられた和歌へと目をうつした。
文の内容は想像の範囲内であったが、和歌となると違ってくる。

なしの花に時過ぎたる実のつきたるに

春深みみ山がくれの花なしと いふにつけてもわきぞかねつる
(春も深まり、奥深いこの山里では花も咲かない梨の花の木と仰っていらっしゃいましたが
    流石に分け隔てることも出来ず、花も咲き、時期が外れてはいるものの実もなったことで何よりです)

目の覚めるような美蹟でそう書かれていた。
(手に人柄が滲み出るというのは、行成殿のことを言うのかもしれぬ)
自分の癖のある字を思い出して、公任は思わず苦笑した。
(私は根性曲がり、ということか)

近侍の者に紙と硯を運ばせると、暫し行成からの文を見つめた。
(私の昇進も、近いということか)
今時分花を咲かせる山梨は、秋頃に実をつけるはずである。
季節外れの除目あり、とも取れる。

「花なしといふにつけてもわきぞかねつる・・・」
口の中で反復しながら、公任は筆を取った。
文の返事と、そして末尾に歌を一首書き付けた。

つねならぬ身をぞ恨むるならぬより 花なしといふ世にこそありけれ
(儚く頼りないわが身を恨めしく思うことですよ。
     実もならないうちから、とかく世間では花も咲かないと言いたがるものですから)

「これだけではつまらんな」
そうひとりごちて、公任はもう一首書き加えた。

ありといふほどだにあるをかつみつつ 花なしといふ春をこそ思へ
(私はこの世に存在しているという程度でしかありませんものを、世の華やかさを横目で眺めながら
人々から花も咲かない深山の梨の木などと評されて、春を迎えなければならない私のことを思いやって下さい)

「これぐらいで丁度良かろう」
口の端に笑みを浮べた公任は、早速行成の元へ文の返事を届けさせた。
右大弁である行成には、このような歌を返すことこそ意味がある。
そう考えて公任は一人ほくそ笑んだ。

三月後、再度上表を奏した公任は、その却下の後に従二位に叙せられた。
異例の人事である。
反感を唱える者も多かったが、公任の家格や三才を重んじる人々からは、昇進の祝辞が寄せられた。


白河の別邸から、四条宮に舞い戻った公任は自らの栄達にひとまず満足していた。
斉信に対しては、若輩の頃から常にライバル心を燃やしてきた公任である。
同腹の兄・誠信の官位を抜いたときも憤死に追いやったほどの男だ。
公任は斉信の異腹弟である道信とは気の合う歌詠み仲間であったが、どうも敦敏卿の娘腹の斉信とは対立してしまう。

「いつまでも、大きな顔をしていて貰っては困る」
秋の訪れを風の気配に感じながら、公任は昇進に費やした一年を思い出し、大きなため息を吐いた。
(性空殿や実資殿には、多分に気を使わせてしまった)
公任の蟄居中、何かと親身になってくれた性空や、最愛の息子・定頼の能筆を見込んで世話をしてくれた実資には
当分頭が上がらないだろう。

しどけない姿のまま、公任は白河から持ち帰った文箱の整理を始めた。
数多くある文の中でも、一際手蹟の目立つ文に目が止まる。
誰かと確かめるまでも無いその文は、控えめな文体とは裏腹に見事な輝きを放つ能筆で書き付けてある。
行成と取り交わした文を思い出している公任の元へ、当の行成の訪問を告げる近侍が参上した。

「慌しいことだ」
そう口では言いながらも、公任は早々に身づくろいをして客人の元へ向かった。

「突然の推参、お許し下さい」
顔を合わせるより先に、無礼を詫びる辺りが行成らしい。
「こちらこそお待たせしてしまったようで申し訳無い」
行成と向かい合うように座ると、公任は手を叩いて家人に御酒を持たせた。
女房に一献ずつ注がせると、公任は人払いをした。
盃を進める公任に、行成は恐縮したように杯を上げてひと飲みする。

「せっかくお寛ぎのところ申し訳ありません。今日を逃しては、いつお話出来るか分かりかねましたもので・・・」
「相変わらず多忙の身と見える。たまには主に逆らってみては如何かな?」
公任は道長の、人をおちょくるような顔を思い出して行成に戯言する。
「私は・・・これくらい忙しい方が性に合うのですよ」
そう言って笑う行成を、公任は好ましく感じた。
きっと虚言ではないのだろう。

「そういえばいつぞやは、文を頂きましたな」
手酌をしかけた公任に、行成が瓶子を傾けながら微苦笑する。
「時期外れの文で、お目汚しでしたでしょう。歌を詠むのは性に合わぬようです」
庭に目を移して、行成は御酒を一口含む。
「しかし、歌を詠ませるのは得意ではありませんか」
「貴方からの返歌は、後生大事に致しますよ」
「それを言うなら私こそ。行成殿のお手を頂けて身に余る光栄」
「お戯れを」
はにかむ行成を見遣ると、公任は何か思いついたように指を立てた。

「左府のたづ君に、手習いの本を書かれたでしょう。私の息子にも一つお願い出来ないだろうか」
「貴方ほどの能書家が何を言われます。お父上の手と私の手をお比べになったら、太郎君でもお分かりになるでしょう」
(素なのか、それとも皮肉か?)
行成の言には、毎度のことながら公任は深読みを強いられる羽目になる。
「お忘れになったとは言わせませんよ。いつぞや、中務宮から文を差し上げたときには返歌も下さらなかった」
昔のことを何時までも覚えている公任に、行成は半ば呆れながらも
「先ほど、私のことを『歌を詠ませるのが得意』と評されたのは公任殿ですよ」
と反撃してみせた。

「これは行成殿の方が一枚上手のようだ」
公任は、真面目に頼んだつもりだったので、内心「残念だ」と思いつつも手元にある文が如何に価値あるものかを
実感していた―――。




「結局、あの時は手本を書いて頂けなかった」
手元で懐紙を弄びながら、公任は当時を懐かしむように微笑してみせた。
公任が顔を上げると、行成も同じように微笑している。
「それは・・・」
行成が口を開きかけたとき、ゴトン、と牛車が止まった。
公任が前簾を手で押しやってみると、どうやら道の窪みに車輪がはまったらしい。

暫くお時間がかかりそうです、と申し訳なさそうに詫びる随身に慌てなくともよい、
とだけ伝えて、また公任は行成の方へと向き直った。
「それで?」
公任は先ほどの行成の言葉の続きを聞きたいらしい。
行成は視線を手元の方に下げると、
「小野宮殿から頂いた、野蹟の手本があるのでしょう?」
とだけ言った。

「・・・相変わらず謙遜にほどがありますな」
わざとらしくため息を吐いてみせながら、公任は尻を浮かせながら行成に目を合わせる。
「道風然り、佐理然り。だが、貴方の手蹟が今めかしくもまた、をかしきものと皆は思うのだ」
「皆はともかく、貴方は如何なのですか?」
公任の言葉に、行成は顔色を変えないまま問い返す。
その目には気のせいか苦渋の色が浮かんでいるようだ、と公任は思った。
「私も、その皆の一人なのですよ」

そう言って浮かせた腰を落とそうとしたその時、いきなり牛車が動き出して公任は前のめりになった。
「っ!」
ゴツン、と音がした。
行成の額に公任の額がぶつかったのである。
申し訳ありません、と外から随身の声が聞こえた。
「もう少し早く言ってくれ」
公任が口の中で呟きながら身を起こすと、行成の肩が震えている。
「行成殿、如何なされた。打ち所が悪かったのだろうか?」
座りなおした公任が、右手で額を押さえながら行成を覗き込んだ瞬間、
クックック、と忍び笑いが聞こえてきた。

「行成殿・・・」
公任が軽く安堵の息を吐くと、行成は扇で顔を覆いながら顔をあげて笑った。
「あはは、公任殿の石頭ときたら・・・ふふ」
まだ笑いを収めきれないようである。
「心配した私の気持ちにもなってくれ」
呆れ顔の公任は、そう言うと自分もつられて笑い出した。
「はは、そういう行成殿も相当な額の硬さでしたよ」
暫く笑い合って、疲れたように二人は肩で呼吸をして息を落ち着けた。

「今日は何かと話に邪魔が入るようだ」
公任が困ったような顔で言うので、行成も思わず苦笑した。
「そうですね・・・」
先ほどの話を思い出したのか、また行成は沈痛な面持ちになってしまった。
そんな行成の表情を見て取ったのか、公任がおもむろに手を差し出した。
そして、行成の手のひらを上に向かせると、愛しいものを見るような手つきで一二度撫ぜてみせた。
「この手が生み出す手蹟を、私は常に愉しみにしているのですよ」
公任は穏やかな口調で、諭すように言う。

「私は・・・何かを生み出すことができましょうか」
「行成殿ならきっと、思いのままに」
いつになく真摯な目をする公任に、行成は破顔してみせた。
「されば、精進致しましょう」
そう言った行成の目は、晴れやかなものになっていた。

暫くの沈黙の後、行成がふと
「何故そこまで仰って下さるのです?」
とこぼすように呟いた。
欠伸をこらえようとしていた公任は、暫く目をしばしばさせていたが
「和歌のお返しだ」
とだけ言った。

「白氏文集に、『陽春の曲調は高うして和しがたし 淡水の交情は老いて始めて知んぬ』と言うでしょう?
私は、貴方とはそういった関係でありたいと思うのですよ。不惑を過ぎてそう思えるようになったのだが」
「・・・過分に誉めて頂くと、かえって嫌味のように聞こえますが」
行成の釈然としないような顔を見遣って、公任は満足そうに頷いただけだった。

ゴトゴトと牛車の振動だけが二人の間に流れる。
公任は、今度はこらえきれなかった欠伸を扇の内で盛大にしていた。
行成もつられそうになりながらも、懸命に欠伸をこらえた。
口元を押さえながら「あ」と小さく呟く。

「機会があれば、張芝や王羲之の書法をより詳しく学んでみたいと思うのですが」
そうこぼす行成に、
「なれば宜陽殿に納められているという手本を拝借してみては如何かな」
と公任は勧めた。
小野道風の書に傾倒する行成は、同じように王羲之の書を学びたいのだという。

「行成殿は勉強熱心なことだ。私など、幾ら真似ても従兄弟の佐理のように乱れた字にしかならぬというに」
「公任殿、佐理殿の書は『奔放自在』というのですよ。佐蹟をしてその仰られよう、流石ですね」
「何が流石かはしれぬが。丁度よい。道風殿に私淑していらっしゃる行成殿にもう一度お願いしよう」
「お願いとは?」
訝しげに尋ねる行成に、公任は意地悪そうに笑って「我が子の為に手本を」と言ってのけた。
「懲りない方だ。今年元服なさるご子息への手向けに、とでも仰るのですか?」
「その通り。まだ癖のつかぬうちに、端正な字形で書を学ばせたいのだよ」
父の顔になって語る公任に、行成は思わず折れてしまった。

「・・・では、私に上達の兆しが見えたら、という前提でお約束致しましょう」
「またそのように過分な謙譲をされる。それも貴方の美点なのだな」
口の端から笑みをこぼして公任は成る程、と思った。
三才を兼ね備えた者、という肩書きの公任に誉めそやされれば大抵の者は自信を持つものだ。
だが、行成にはその兆しが見られない。
書への飽くなき追求が、一層その人格の誠実さに磨きをかけているのではないだろうか。
さきほど触れた手ほ見ても明らかだ。
端正な指先にも、筆の跡が生来のもののようについている。
紙に書するだけでなく、おそらく空書きもしているのだろう。

「敵わんな」
思わずそう呟いてしまった公任の言葉は、行成には届かなかったようで、長物見を開けて外に目を向けていた。
あるいは、気づかぬふりをしているだけかもしれない。
公任はそう察して目を閉じた。
(年を取るとやたらと口数が多くなるとは、よく言ったものだ)
そう心の中で自省しながらも、行成との語りのときを反芻して思わず喜色になる公任だった。

微笑を浮べたまま寝息を立て始める公任を横目で見ながら、行成も自分の手のひらをジッと見ると、
一人口元を緩めた―――。


<了>
2003.6.15


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補足。
@「小野宮殿から頂いた、野蹟の手本があるのでしょう?」
というのは実資さんから定頼(公任息)が貰った道風さんの書蹟のことです。

A作中、公任が言っていた『陽春の曲調は高うして和しがたし 淡水の交情は老いて始めて知んぬ』という句は
和漢朗詠集にも載っているものです。
「高尚な曲は私には和しがたいほど格調が高いもの。また、貴方との交友は水のように淡々として、それゆえ
終始変わらず永続きするということも年老いた現在となって始めて悟る次第です」(講談社学術文庫参照)
というような要約。高尚な曲→行成さんから貰った和歌みたいな感じだと思ってやって下さい。