■熾烈な才女■

平安京・一条学園文芸部―――。

才人・才女を数多く輩出していることで知られる一条学園内において
最もファンの支持層が広いのは、この文芸部である。
代々の理事長や理事、またそれら重役の夫人の庇護の下、華麗なサロンを
展開してきたことでも知られていた。

さて、今ここに文芸部を代表する二人の才女がいる。
学業のかたわらエッセイストとして活躍する清少納言と、大河小説の連載で人気を博している紫式部であった。
この二人、ある意味切磋琢磨していると言っても良いのだが。
実のところ仲があまり良くないとの評判である。
同倶楽部に所属している赤染衛門さんの証言によって、その裏づけは取れているらしい。

「来月号の『月刊・殿上人』の表紙は伊周さまで決まりね」
「何を仰っているのです?矢張りここは、新たに理事就任が決まった道長さまに決まっているではありませんか。
それに、左遷された中関白家の方を表紙に起用するのはどうかと思いますけど」
「貴女ね、いつもそうやって何だかんだと正論ばかり仰ってるようだけど。それじゃあモテないでしょ」
「なっ、今回の表紙とは関係ないことを持ち出さないで下さいませ!」

2年生の清少納言。
1年生の紫式部。
彼女たちの部活動は、この口論から始まるのであった。

「失礼」
と、いつものように言い争っているところへ生徒会の四人がやってきた。
「これはこれは俊賢さま、公任さま、斉信さまに行成さま」
宮仕えスマイルに切り替えて即座に応対したのは、清少納言である。
「一体、どうなされたのですか?」
手にしていた表紙候補・道長の写真を置くと、式部が首を傾けつつ尋ねる。
質問された四人は、暫く各々の顔を見合わせていたが
「実は、連載中の『源氏物語』の続きが気になったので・・・」
と公任が真顔で答えた。

「まあvv」
喜ぶ式部を尻目に、斉信が公任に拳骨を入れた。
「ボケはいらん!あー、単刀直入に言おう。文芸部に学園祭の告知をお願いしたいのだ」
「それならば、別に私たちで無くとも良いのでは?」
もっともなことを言う少納言に、行成が口元に手を当てながら何故か恥かしそうにコトの真相を明かした。

「確かに行成さまを始め、四納言さま方のお手では盗まれるのも道理ですわね」
腕組をしながら少納言は頷いてみせる。
「ところで『四納言』とは何か?」
漸く口を開いた俊賢が、本筋とは関係のないところに疑問を持ったようだ。
「ご存知ないのですか?貴方さまがた生徒会のメンバーの総称として、皆がそう呼んでおります」
式部がバカ丁寧に答える。

「はは・・・総称ね」
呆れ顔の斉信を見て、公任も同様に顔をしかめた。
どうやら、四人一まとめにされたのが気に食わないらしい。
「そういう訳だから、引き受けて貰えるかな?」
一人冷静な行成が話を本筋に戻して切り出した。
少納言は意地悪く、「そうねぇ・・・」などと呟いてじらしている。


「引き受けてやってくれ」
と、ふいに戸口から声がした。
振り向くと、道長が中を覗くようにして立っている。
「み、道長さま!」
姿を認めた式部が慌てて椅子から立ち上がる。
少納言も、突然の理事の来訪に呆気に取られたようで、言葉を紡げないでいた。

「道長殿、理事ともあろう方が生徒の自治運営に口を出すものではありませんよ」
公任が面白くない、という顔で言うと道長は額に手を当てて笑い出した。
「あはははは・・・。まあ、うん。そうなのだろうな」
道長の笑いの意味がわからず、四人と二人はそれぞれ首を傾げる。
「文芸部発行の読み物は、校内外で定期購読している者も多いと聞く。学園祭の内部告知だけでなく、
いい宣伝にもなろうて」
そう云い放って、道長はそそくさと廊下を歩いて行った。

「なんだったんだ一体・・・」
斉信の言葉に皆が一様に頷くと、少納言が手を腰にやって四納言に向き合った。
「まあ、理事殿のお声がかりだから。この際は見返りなしで引き受けますわ」
「有難い」
四人が揃って頭を下げると
「・・・なんて言うと思いました?余計な仕事が増えたからにはそれなりの見返りを頂きます。
生徒会からは、我が文芸部の部費の支給額のアップを。そして・・・」
少納言の視線が斉信と行成に移る。

「「うっ・・・」」
察した二人がうめき声を上げるのを聞いて、少納言は微かにほくそ笑んだ。
「後は身に覚えのある方から報酬を頂きますわ」
「あと、四納言さま方の独占インタビューなんて如何でしょう」
少納言に継いで式部が提案してみせた。
「あら、偶にはいい事言うものね。その案頂くわ。宜しいですね?」
少納言と式部の穏やかな笑みに隠された睨みを受けて、生徒会の四人はただ
「あい分かった」
と答えるしか無かった。


文芸部を後にした四人は、それぞれ帰宅準備のため各教室へ帰って行った。
三人の姿が見えなくなるのを見計らうと、公任は一人足を止めた。
「そこに居るのは分かっているのだが?」
声をかけられた相手は、笑いを堪えるようにして靴箱の陰から姿を現した。
「矢張りお前には気づかれたようだな」
扇の下から見せた顔は、道長その人であった。

「で、何か御用がおありか」
軽くため息をつく公任を見遣って、道長は廊下の壁に凭れ掛かった。
「・・・掲示は最初からワープロを使用。そして文責者の名前は生徒会で統一すること」
「・・・何?」
公任は道長の言葉の意味が即座に理解出来ていない。
その様子を見て、今度は道長がため息を吐く番だった。

「あのな、お前たちが自筆で書かなくとも活版文字を使うという手があろう。それに、いちいち
自筆の書に『文責・何某』などと明記していたら、私でなくともあの掲示を持ち去る輩が出てくるぞ」
それだけ云うと、今度こそ道長はその場を立ち去っていった。

「犯人はお前かーーーーーー!!」
後に残された公任は、ただただ、そう叫ぶしかなかったのでした。

<おしまい>
2003.7.4

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<あとがき>
前回、投票数の多かった清少納言と道長が出張ってます(笑)。
詮子さまもそのうち登場予定ですので、暫しお待ちを。
・・・なんだか本当にただの学園モノになってしまってますが(汗)、如何なものでしょう。
今回は清少納言の台詞を打ちながら、ミニスカ&ハイソックスの少納言さんを思い浮かべてしまいました・・・(笑)
そのうち、人物設定(というか肩書き?)一覧を作ってUPしたいと思いますので、今後とも宜しくお願い致しますv



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