■欲張りな安心感
直江が優しすぎて怖い―。 というよりいっそ不気味だ。 何か下心があるとしか思えないほど俺を甘やかす。 千秋に愚痴ってみたが、 「お前のは惚気にしか聞こえねぇんだよ」 と、逆切れされてしまった。 まあ、そう言ってしまえばそうなのかもしれないけど・・・。 7月23日。 俺の誕生日に限って直江と連絡が取れなくなった。 朝起きたときは、 「これから美味しいケーキを買ってお祝いに行きます」 なんてメールして来たのに。 あまり遅いから、心配して何度も携帯に電話をしてみたけれど 圏外なのか電源を切っているのか繋がらない―。 事故に遭うようなタマでも無いし。 夜も8時を過ぎた頃、玄関先でインターホンが鳴った。 出なくとも分かる。 直江だ―。 出て行こうとする美弥を制して玄関口へと向かう。 「随分遅かったじゃねえか。携帯かけてもつながんねーし、 俺のことなんて忘れて、どっかの女とシケこんでたんじゃねえのか?」 敢えて意地悪く、攻め立てるような口調と顔つきをしてみる。 直江の方は―ただ困った顔をして口元で微笑しているだけだ。 コイツ――っ! 「あー!直江さんが持ってる箱ってもしかしてAntique』!?」 俺が怒声を発しようとした瞬間、背後から急に美弥が叫んだ。 いつの間にか、俺の肩口に掴って直江を覗き込んでいる。 箱? 奴の手元を見ると、確かに小さな箱を抱えていた。 「「これから美味しいケーキを買ってお祝いに行きます」」 朝受け取ったメールを思い出した。 まさか、ケーキ? 俺の呆けた顔を見て、直江は口を開いた。 「美弥さんが食べたがっていたケーキなんですが、手違いで 予約出来てなかったようで・・・。 同じ系列の店を探していたら こんな時間になってしまいました。携帯もあちこちにかけ過ぎたせいか、途中で充電が切れてしまって」 そう言って美弥にケーキを手渡した直江は、よく見ると肩口が濡れていた。 雨が―降っていたのか。 「直江さん、有難う!」 嬉しそうにケーキを受け取って、美弥は台所に走っていった。 俺がまだ親父に殴られていた頃。 もし万が一にも俺を好きになってくれて、俺もそいつのことを好きになれることがあったならば―。 俺のことを好きなのと同じくらい美弥を大事にしてくれる奴がイイと思ったことがあった。 そんな夢みたいな現実、決してありはしないと思ってたのに。 「ありがとう、直江」 口から零れた感謝の言葉は、直江の軽い抱擁に吸い込まれていった。 「あのねお兄ちゃん。何で直江さんが頑張ってケーキ買って来てくれたと思う?」 「なんで、って・・・お前の好きなケーキ屋のだからだろ」 「えへへ、実は美弥が直江さんに『Antique』のケーキが 食べたい!ってお願いした後にね・・・」 「後に、なんだ?」 「『美弥と同じくらいお兄ちゃんも好きなんだよ』って 耳打ちしてあげたからだと思うの」 「美弥・・・・・・」 |
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2003.07.30
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なんか高耶さんが高耶さんじゃない(汗)。
改めて古い話を読み返すと恥ずかしいです。
ハピバ話ということで大目に見てやって下さい(笑)。