■庶民派?





消耗品はなるべく安く買う―。
それが俺のモットーだ。
その日、新聞広告に出ていた特売をしているスーパーまで足を伸ばしたのが運の尽きだった。

トイレットペーパーは安いときに買い溜めする癖なので、(オイルショックに備えるという意味でも)
あらかた必要な物を買い物カートに詰め込んだ俺は、カートの車輪を唸らせながら、特売の売り場へと急いだ。
流石に山積みだ。
高く積み上げられたトイレットペーパーを見上げて、俺は腕まくりした。

(とりあえず四つ買っとくか)
一人で持ち帰るにはいささか大漁ではあるが、もしもの時は直江を呼べばいい。
そう思って一袋目のトイレットペーパーを掴んだ瞬間、誰かの手と重なった。
俺と同じように買い込みに来たオバサンだろうと思い、

「すみません」

と声をかけた次の瞬間―――

「こ、高坂!!?」

あまりの驚きに、俺はひっくり返りそうになった。
な、なんで高坂がこんなところに。
お、落ち着け自分。
胸を二三度、軽く叩いて心拍数を戻そうとしている俺に
高坂が口を開いた。

「これは上杉の総大将殿。お互い妙なところでお会いしましたな」
「俺は一般庶民だからイイんだよ。それよか何でお前が・・・」

あれ?
よく見ると、高坂はいつもの白コートの代わりに青いエプロンをしている。
このエプロンって、まさか・・・

「そういうことだ」

高坂は、胸に「新井」と書かれたバッジを付けていた。
あー、またコイツはこんなところでバイトを―。

「新井く〜ん、そっち終わったらこっち手伝って」
店長と思しきオジサンから声をかけられた高坂は、
「今行きます」
と殊勝な返事をして、再び俺に向き直った。

「ここでお会いしたのも何かの縁。このクーポンを使うと
 レジで更に10%値引きされますぞ」
そう言って、俺のカートに緑色のクーポン券を落していった。

・・・な、何だったんだ一体―。
手元に残されたクーポン券を見つめながら、俺は思わず、
「もしかして、口止め料なんだろうか・・・」
と呟いてしまったのだった。


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高坂って意外と何でもやるタイプだと思います(笑)。