■生徒会運営の醍醐味■
平安京・一条学園―――。 この学園は、由緒正しい貴族の子弟が通う名門として知られている。 「運・財力・女がら」をモットーとするこの学園は、多くの才媛を輩出していた。 その最たる者たちの集まりが、生徒の自治運営の取り締まり役・生徒会執行部であった。 生徒会長:源俊賢。 副会長・会計:藤原公任&藤原斉信。 書記:藤原行成。 以上4名が、現在の執行部正式人員である。 公任と斉信が、副会長の座を狙って日々相争っているため会計と兼任ということになっていた。 一般生徒に対する投票を行っても、その都度票が動くため今や当事者だけの問題である。 生徒会長の俊賢は、一番年長(3年生)ということで運良くその座に収まっているが、 発言権はほとんど公任と斉信にあると言っても過言ではない。 だが、次期会長の座を狙っていることも確かではあるが、生徒の間では書記の行成が次期会長の座を 譲り受けるのでは、という噂が飛び交っている。 「そろそろ学園祭の告知をしなければならない時期だが」 最初に本日の議題を口にしたのは公任であった。 「ああ、それでしたら今朝昇降口前の掲示板に掲示しておきましたが」 即座に行成が予め仕事を済ませておいたことを告げると、椅子を浮かせながら斉信が 「ん?さっき校内を見回ったときは、見あたらなかったが・・・」 とおかしなことを言う。 「変ですね。確かに三カ所ほど掲示したはずなのですが」 行成が議事録を書き留める手ほ置き、困ったような顔をした。 「・・・おい、もしかしてそれは行成の直筆か?」 顎に手をあてて考えていた斉信が、行成に問う。 「ええ、そうですが・・・」 「「それだ」」 「それでしょうねえ」 斉信と公任が声を揃えて、俊賢がやや遅れて結論に達した。 「?」 と、疑問符を頭に浮べて首をかしげているのは行成だけである。 「要するに、行成殿の筆蹟ファンが剥がして行ったとしか考えられんな」 「然り」 公任の意見に、俊賢と斉信も同意を示した。 「持って行って何に使うのでしょうか」 行成のもっともな意見に、眉をひそめた斉信だ。 「そんなことは私の知ったことじやない。観賞用でも手本でも。まあ、色々とあるのだろうよ」 斉信が椅子を揺らしているのを横目で見ながら、公任は斉信に言い放った。 「してどうする?我ら三人で書き直すか」 「まあ、それでいいんじゃないか」 そういうことになった。 俊賢・公任・斉信の三人が各々通達文を書き、再度掲示したのだが・・・ しかし、事態は変わらなかったのである。 ■□■□ 「おい、昼休みに貼った掲示がもう無くなってるぞ」 放課後、再度集まった生徒会役員の元に清掃時間が長引いて遅れたと弁明する斉信が駆け込んできた。 「はあ?行成殿の手だけでは無かったのか」 斉信の報告に顔をしかめる公任を見て、行成がクスッと笑みをこぼした。 「皆さん、自覚が無いようですが思いの外、生徒たちに人気がおありなのですよ。でなければ、生徒会役員などしておられぬはず」 行成が屈託なく言うので、公任も思わずその気になった。 「それもそうか。だが、別に能書でもない我らの手を・・・」 「おい、自分の拙筆を認めるのはいいとして、俺や俊賢殿まで巻き込むなよ」 公任の珍しい謙譲に、斉信が即座に突っ込みを入れる。 「当代随一の能書家である行成殿を目の前にして、よくもまあ抜け抜けと」 フン、と鼻を鳴らしそうな公任に斉信は益々高圧的になった。 「それぐらいは心得ておるさ。ただ、お前の曲がった書蹟と同等で語ってくれるな、ということだ」 「何?」 「まあまあ」 一触即発の二人の間に入ったのは割と温厚な俊賢であった。 そして、二人の口が再び開く前に、すかさず行成に 「行成殿、貴方はどうするのが得策かと思われますか」 と意見を求めた。 「そうですねぇ・・・私たち以外の方。先生か女生徒にお願いしては如何でしょう。この学園には、多彩な人材が揃っていることですし」 「まあ、それが妥当だろうな」 「それしかなかろう」 斉信と公任が、行成の意見に賛同するのを尻目に、俊賢は心の中で (最初から手書きではなく、ワープロで作れば良いものを) と思ったとか思わなかったとか。 |